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2万年前の遺跡をそのまま保存 「地底の森ミュージアム」とは?

2024年05月27日

仙台市太白区長町にある「地底の森ミュージアム」は、2万年前の旧石器時代のたき火跡と森林跡を発掘したままの状態で保存・公開するとともに、当時の景観を「氷河の森」として野外に復元しています。

2万年前のキャンプ跡が見つかる

2万年前の遺跡の発見は、1982年(昭和57年)まで、さかのぼります。太白区富沢一帯の地下鉄建設に伴う試掘調査がきっかけでした。遺跡は、「富沢遺跡」と命名されました。
さらに、1988年(昭和63年)3月に、小学校建設のための事前調査において、旧石器時代の氷河期の森林跡とともに、2万年前の野営跡が発見されました。

野営跡地からは、たき火の跡が1か所見つかりました。また、たき火跡の周りから、割った石のかけらが100点以上出土されました。
野営跡は、2~3人程度の少人数の狩猟集団が狩猟活動の途中で、一時的な野営地としてキャンプを張っていたと推測されています。その地で、狩人たちは、捕らえたシカなどの獲物を解体して毛皮や食肉などに加工するとともに、遺跡周辺で採取した石材から石器を製作したり、使っていた石器を修理したりして装備をアップデートした後に、狩猟活動を続けるため、別の場所に移動していったと考えられます。

森林跡の調査から、当時の富沢には、湿った土壌環境下で湿地林が広がっていたことがわかりました。樹木の多くは、グイマツ(カラマツ属)や、絶滅してしまったトミザワトウヒといった針葉樹が占めていました。グイマツは現在、千島列島南部[色丹(しこたん)島、択捉(えとろふ)島]や、サハリン南部に自生しています。そのため、2万年前の富沢周辺の気温は、今よりも7~8℃ほど低かったと推定されます。
加えて、森林跡の約40か所からは、シカのフンも見つかっています。

旧石器時代の人々は、さまざまな場所を短い期間で移動しながら生活していたといわれています。2万年前の人々は、長期的な居住には適さない場所に、短期的にキャンプをしていたのです。近年キャンプがはやりですが、旧石器時代の狩人たちは、生死を懸けて野営していたに違いありません。

世界的に貴重な発見。小学校建設から遺跡保存に変更

人が長期間住むのに適さない湿地林の中に残されていた、旧石器時代の氷河期のキャンプ跡は、1回利用されただけの痕跡でした。
これは、世界的に見ても貴重な発見でした。そのため、仙台市は1988年8月に、予定されていた小学校の建設地を遺跡の範囲外にある別の場所に移すことと、遺跡を地面から切り離さずに発掘したままの状態で保存し市民に公開することを決定しました。

日本では、例えば道路建設予定地で遺跡が見つかると、発掘調査はするものの、調査後には遺跡を破壊してそこに道路を通すことが普通に見られます。「ただつぶしているわけではない。調査結果を記録しているから保存していることになるのだ」というのが建設関係者らの言い分です。いわゆる「記録保存」という名の保存の理論を持ち出すのです。わが国における遺跡(埋蔵文化財)の大部分は、記録保存を盾に、発掘調査後に破壊するのが前提のようにも思えます。
しかし、富沢遺跡は、悲惨な運命をたどらずに残りました。遺跡を破壊してしまったら、地域、ひいては世界の貴重な資源が消失してしまう。仙台市は、富沢遺跡の重要性に気づいていたのです。

そして、「地底の森ミュージアム」が開館

その後、1996年(平成8年)11月に、「地底の森ミュージアム」(正式名称は「仙台市富沢遺跡保存館」)が開館しました。

来館者は、正面ゲートを通ってから、階段を下りて地下の入口から入館します。そこでまず目にするのが、地下展示室です。旧石器時代の遺跡は、地下展示室で見られます。楕円(だえん)形のコンクリートに覆われた地下展示室は、約900平方メートルの広さ。その周囲をめぐるデッキからは、たき火の跡、2万年前の木の根や幹、シカのフン(少しわかりづらい?)などを見渡せます。

地下展示室からスロープと階段を上ると、1階展示室があります。富沢遺跡についての詳しい解説は、1階展示室でされています。人類の活動をテーマとする展示と、自然環境をテーマとする展示が中心です。なお、シカのフンは、1階展示室においてさらに近くで観察できます。
1階展示室を出て展望ラウンジへ進むと、窓から「氷河期の森」を見渡せます。氷河期の森では、2万年前の富沢の風景を再現。森は、調査成果を基に、針葉樹をメインとした樹木のまとまりが点在する湿地林から構成されています。

地底の森ミュージアムでは、2022年(令和4年)7月に、来館者100万人を達成しました。

保存にひと苦労。外壁で地下水を遮断。カビ●ラーを使わないカビ対策

地底の森ミュージアムは、地下水位の高い場所に立地しています。こうしたことから、遺跡への地下水侵入の防止を目的として、厚さ80センチメートルのコンクリート壁を地下20メートルの深さまで打ち込み、地中からも遺跡の周りを囲んでいます。
さらに、遺跡を発掘したままの状態で保存・公開するために、最先端の化学技術を駆使して、富沢遺跡用に特殊な保存処理剤(シリコーンコポリマー)が開発されました。この処理剤を使うと、湿った状態でも、土壌や樹木に染み込んだ処理剤が水の動きを抑え、カビが生育できない環境にします。そのおかげで、ミュージアムの開館以来、地下展示室には、カビは発生していません。

自然は、人間の手で完全にコントロールすることはできません。しかしながら、より良い状態で遺跡を見てもらうために、地底の森ミュージアムは、遺跡の状態に細心の注意を払いながら、分析調査や処理作業を続けていくとのことです。

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